多様なライフスタイル実現を可能とするSOHO by 中小企業白書

昨日、今年度の『中小企業白書』が発表された。白書のポイントは以下で読める(http://www.chusho.meti.go.jp/hakusyo/)。
今回の特徴は、なんといってもSOHOが大きく取り上げられている点。
中小企業を巡る新しい動きの中で「新しい価値を創造する、多様な中小企業」との課題で「多様なライフスタイル実現を可能とするSOHO」を取り上げ、SOHO事業者の開業動機が専業と副業とで大きく違うことを挙げている。
専業は圧倒的に、「自由に仕事がしたかった」で、副業は圧倒的に、「収入を増やしたかった」が、開業動機。
専業では女性比率は約3割だが、副業では55%に上り、女性の半分強は専業主婦、そのうち80%以上が過去に勤務経験がある人だという。
これらは、SOHO支援施設での2年の勤務体験の実感とも概略で一致しており、納得。
その他、コミュニティ・ビジネス(社会的起業)についても、「公益サービスの新しい提供スタイル -- 地域貢献型事業」として取り上げており、コミュニティ・ビジネスが地域や(ビジネスの)代表者にどう影響を与えたか、との調査で、「地域内での住民の交流が活発化」、「地域の人々の生きがいの創出」、また「自分の事業に対する理解者が出現」、「事業に携わることによる自らの充実」が高いランクで挙げられている。
それらを白書では「多様な中小企業は、経済社会の変化(IT革命、高齢化等)を活かし、・ニューサービス ・新しい就労形態(SOHO) ・公益サービスの新しい供給スタイル(地域貢献型事業)を創出するとともに、相互に新たな連携を進めて、経済社会の質的向上に貢献。」とまとめている。
つまり、少子高齢化、女性の社会進出 などの多様な就業形態の受け皿として、また、景気低迷下、地域密着サービスをして新たな産業や雇用、そして生きがいまで創出するものとして、SOHOやコミュニティ・ビジネスが「中小企業白書」という枠組の中でさえ、ここまで期待されてしまったということだ。
ついに時代はここまで来たか、と反応するしかない。
一方で、経産省の予算でやっている「ドリームゲート」のメルマガでは、今月、「インディペンデント・コントラクターで独立」が集中連載テーマだった。(http://www.dreamgate.gr.jp/guide/hito/oydg/
ドリームゲートの説明をコピペすると、インディペンデント・コントラクターとは、「これまで培った経験・ノウハウ・スキルを複数の会社と契約して提供する『独立請負業者』のこと」である。「雇わない、雇われない生き方」、「自分の好きな仕事だけをやりたい」。魅力的な言葉である。
ドリームゲートの連載第1回目の岩松さん(http://www.dreamgate.gr.jp/guide/hito/oydg/oydg_14.php)は、インディペンデント・コントラクター協会(http://www.npo-ic.org/)というNPOの専務理事までしている。そんな団体があったことも今回はじめて知ったが、SOHOの互助会みたいなものは結構あるが、これからはICの互助会時代か。
IC協会のサイトを見ていたら、玄田氏のメッセージがのっていた。(http://www.npo-ic.org/message/m_genda.html)玄田氏といえば、『仕事のなかの曖昧な不安』(ASIN:4120032175)という刺激的な本で記憶に新しい経済学者だ。
この著作で彼は、若年層の雇用問題に焦点を当て、パラサイトシングルやフリーターを非難するのはお門違いで、それらは中高年の雇用維持の犠牲からくる当然の帰結だと看破し、一方で過剰に働く若年者の存在にスポットを当て、長時間労働の若年が増加しているデータをもとに、「すぐ辞める若者」という現象の背後にある、「何のために働いているか分からなくなった」、「自分の人間としての成長を感じられなくなった」といった「働く意欲の低下」と簡単には片付けられない真の理由をあばいている。
こうした考察のもとに彼は、「フリーターが今までにない新しいタイプの独立開業者に移行できる道筋をつけることこそ、最も重要」だと指摘する。
実際にはデータから「開業には、学卒後二〇年近く仕事の経験をした四十歳前後が望ましい」と分析しつつも、「『ニューインディーズ』とでも呼べるような、軽やかな新しいタイプの自営業がフリーターのなかから大量に出現してくること」が、「経済の新しい局面をきっと切り開いていく」とし、「若年雇用問題の将来は、若者が『自分で自分のボスになりたい』と思うかどうかにかかっている」と結んでいる。
最後に、仕事がないのは中高年(大人)のせい。そういう社会構造のせい。実際にはフリーターしかない。正社員になっても賃金少なく労働時間は長い。そうした時、まずは仕事を「頑張る」な。そして「夢を持つ」よりも大事なのは、「自分で自分のボスになる」という意志をはっきり持つこと。ボスになるには、信頼できる「仕事以外」の友人を持つこと、と具体的にアドバイスしている。(最後のアドバイスは現在ネット上の一部で大流行しているorkutGreeなどといったソーシャル・ネットワーキング・サービスの意義付けを想起させる)
そんな彼が、IC協会のサイトで、独立請負人(ドクウケ)に期待を寄せ、ドクウケのプライドと実力を社会に高らかに示せとメッセージを送っている。
なるほど、世の中、そうつながってきているのか。
さて、ゴチョゴチョ言ってるけど、結局何が言いたいのさ? とうんざりしている人も多いことだろう。
今回の中小企業白書もインディペンデント・コントラクターにしても、ご説ごもっともなのだが、ほんまにこのまんまでいいの、と思わず目を覆いたくなるのも現実なのよね〜、という話なのである。
昨年の9月7日の神戸新聞内橋克人が「急増する非正規雇用の歯止めを」と題した小論を掲載した。彼は「労働経済白書」の総括部分(http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/03/13.html)を引いて、大きな差別を受けている非正規雇用労働者の急増を、「働き方の多様化」で経済社会の変化にともなう「必然の流れ」だとする捉え方に異議を申し立てている。
「自分らしい働き方」や「新しいライフスタイル」といったごく一部の例外的な選択を普遍化して、フリーターをはじめとする非正規雇用を新しい働き方のモデルとばかりにもてはやす学者(政策形成者)で満たされる世の中はおかしい、と。
彼は、非正規雇用とは、第一に不安定・低賃金の調整弁的労働であり、第二に社会全体の所得分配の不平等化促進だ、と説明した後、さらに深化した現代を象徴するものとして、「インデペンデント・コントラクター(独立契約者)という名の『疑似独立業者』の増加」を挙げている。
サラリーマンが「きみは明日から独立自営業者として会社と対等に契約を結んでもらう。ケガと弁当は手前持ち」と宣言され、労働の内容は被雇用者でありながら、責務と身分は「独立下請け業者」へと変わるという仮想例を挙げ、「働く自由」と「働かせ方の自由」の峻別の必要を訴えているのだ。
そう。たしかに独立には魅力があるし、そうせざるを得ない時代状況があるのも確かなこと。けれども、それを強調しすぎるあまり、誰かれもが、漠然とした将来への生活不安をもつ社会になっていいのか。礼賛する新しさの影でおきている惨状(その一部はSOHO支援施設でも時にみることができる)を認識せずして礼賛するのだとしたら、それに与することはできないというのが、私の今の思いである。
最後に、数字を。
内橋氏によれば「このまま進めば遠からず、働くものの二人に一人は『非正規雇用』となろう」。
玄田氏によれば「現在のペースが続けば、二十一世紀半ばの日本は、十五歳以上のおよそ二人に一人しか、働かない(働けない)国になると、予想される」。
そして、玄田氏の著作より引用の、1928年のアムステルダム・オリンピック三段跳びで日本人初の金メダリストとなった織田幹雄の言葉より。
「考えてみると日本には、緊張をさそう悪いことばがある。それは『がんばれ』である」。
SOHOに連休はない。が、黄金週間、しばし落ち着いてみるのも悪くはないとも思う今日この頃。あなたもご一緒にちょっとブレイクしてみてはいかが?